チェコビール巡り

チェコビールを中心とした旅行記と雑感です

黄金の虎

 チェコへビールを飲みに行く人にとって”登竜門”とも言える存在が、黄金の虎こと『U Zlateho Tygra』ということになっている。私が初めてチェコを訪れた2010年、そういった知識が全くなく、単に「地球の歩き方」に掲載されていて、それっぽい店の雰囲気が出ていたので訪れてみたのであった。ただ、外からは店の雰囲気が全く計り知れないことに気おくれしたのか、はたまた、中に入ってみたら満席で、店員から声すらかけられなかったことであきらめたのかは定かでないが、とにかく、ここでビールを飲まなかったことは確かである。初めてのチェコ訪問は普通の旅行の延長線上だったので、とくに残念ということもなく、まあ、気がむいたらまた来ようくらいであったと思う。

f:id:bohemianbronco:20210128111259j:plain

 

 何度目かのチェコ訪問で無事入店。開店の”15:00”少し前には店の前にいたはずである。チェコの人には怒られそうだが、チェコにビールを飲みに来た理由の一つに、古い映画に出てきそうな、少し薄暗い地元の年寄りが通うような”雰囲気のある”ところで飲んでみたいという欲求があった。おそらく、それは、一般的にビールの国と知られているドイツやベルギーではなぜか叶わないような気がした。この店に入ったとき、目の前で愛想の欠片もなさそうなおじさんがビールを注いでいる光景を目の当たりにしたとき、そして、ビールを口にしたとき、自分の思いが決して間違っていなかったことを誇らしく思いさえした。意外に観光客が多かったことなど大した問題では無かった。

f:id:bohemianbronco:20210128111720j:plain

 

 飲み終わると何も言わなくても次のビールが目の前にドンっと置かれる。俗に言う”わんこそば方式”である。店員に言えば、メニューをもらえて食事をすることも可能だが、それをしないことがなぜか礼儀とさえ思われた。ビールというものが飲む店でこうも変わるものかと思ったのもこの時である。店を出てからも口に残る苦味の心地よさに感動してしまった。
f:id:bohemianbronco:20210128110244j:plain

 

 ノーモアの場合はこのようにコースターで蓋をするらしいのだが、こんなことをしたのは写真を撮るためにやってみた直近の一度のみで、それ以外は店員を見て意思表示をすれば何事もなく店を後にすることができた。

f:id:bohemianbronco:20210128112125j:plain

 

 たんたんとジョッキにウルケルを注ぎ、手が空けばグラスをさっと洗って裏っ返して置くことの繰り返し。何の特別感もない。客席を軽く見渡して、またウエイターの動きを見ながら特段の指示も無く、ウルケルが注がれていく。カウンターは完全に彼一人が支配する空間なのだ。

f:id:bohemianbronco:20210128111351j:plain

 

 f:id:bohemianbronco:20210128112417j:plain

 

f:id:bohemianbronco:20210128111801j:plain

 

 ある意味会員制クラブのような店であって、ほぼすべての席に「Reserved」の札が置いてあるが、そこに書かれている時間まではこの特別な空間を占拠して良いことになっている。

f:id:bohemianbronco:20210128111951j:plain

 

f:id:bohemianbronco:20210128112014j:plain

 

 2回目の訪問以降、15時ちょうどにカチャリと開けられるこの扉の鍵の音が、おとぎの国への誘いのようにあなたを何とも言えない気分にさせるはずである。

f:id:bohemianbronco:20210128111536j:plain